おしゃべり短歌日記

Made with ✍️ by たご

小説の発表はこちら!

Nov 12, 2019

土曜日、ヘルシンキ中央駅の地下トイレの前で、知らないお兄さんに「日本人ですか」と声をかけられた。痩せて背の高い黒人で、テンポの良い英語のなかに、どこかよくわからない訛りがあった。

なぜこちらが日本人だとわかったんだ、というのが最初の感想である。フィンランドでは、アジア人はみんな「中国人」なのである。中国がアジアの中でいちばん人口が多いから、そう言っておけばだいたい当たるんだろう。母国タイでフィリピン人に間違えられがちなギャミーでさえ、だいたいいつも中国人かと聞かれるらしい。まあ、アジアの外におけるアジア人の容姿の区別なんてそんなもので、ほぼないんだと思う。

とにかく、怪しいので何も言わずに黙っていると、ポーター吉田カバンの高級そうな名刺入れを取り出して、これ拾ったんだけど、と言う。見せてもらうと、名刺が50枚くらい、かなりの厚みに膨らんでいて、それからtaspoが入っている。それだけだ。日本人の顔写真、女性の名前だった。

「日本語だよね? このカード、大事なものなのかな?」

そう、このお兄さんは、たまたま日本人を探していたらしい。なんだかいい奴のようだ。

ぼくも自分が日本人だと明かして、「大事っちゃ大事だと思うよ。名刺と、あと日本でタバコ買うときに必要なカード。ヘビースモーカーなら、なきゃ困るだろうね」みたいなことを言ってみた。すると男は、「へえ。そんなに大事じゃないなら、このままこの名刺入れ、もらっちゃおうと思うんだけど」と言う。こちらが黙っていると、まくしたてるように、

「もし本当に大事なものなら、どっかに届けなきゃだめだろ。でも、もしそんなに大事じゃないなら、俺がもらっちゃうわ、これ」

と言って、なおもぼくの意見を求めている。なぜ拾った名刺入れをパクるのにぼくの意見を求めるのか、いい奴だか悪い奴なんだか、よく分からないまま、「どっちでもいいんじゃない」と言って別れました。クレイジーだよね。